工場の温度・湿度管理のポイントを作業環境別に解説

工場における温湿度管理の必要性・重要性とは

工場では製品やデバイスだけでなく、働く従業員のためにも温度・湿度管理が非常に重要です。

その主な理由の1つが、製品やデバイスの品質保持です。例えば、食品工場では温湿度が高すぎると食中毒菌が繁殖し、食中毒が発生する可能性があります。また、精密機器等の製造現場では、湿度管理が不十分であると、錆の発生やデバイスの故障、さらに静電気による損傷にもつながります。これらの問題を防ぐために、温度や湿度を適切に管理することが必要です。

また、もう1つの理由として「労働安全衛生規則」という法令に基づき、快適かつ安全な労働環境の整備が求められている点が挙げられます。

労働安全衛生規則とは？作業環境の安全のため、適切な温湿度管理が必要

労働安全衛生規則は、厚生労働省(旧労働省)が制定したもので、労働者が安全かつ安心して働けるように、安全衛生の基準を定めた省令です。特に重要なのが、第606条および第607条で規定されている作業環境における温湿度管理です。

第606条

事業者は、暑熱、寒冷又は多湿の屋内作業場で、有害のおそれがあるものについては、冷房、暖房、通風等適当な温湿度調節の措置を講じなければならない。

第607条

事業者は、第五百八十七条に規定する暑熱、寒冷又は多湿の屋内作業場について、半月以内 ごとに一回、定期に当該屋内作業場における気温、湿度及びふく射熱を測定しなければならない。

暑熱・寒冷・多湿といった過酷な作業環境で労働者が長時間働き続けると、労働者の健康に様々なリスクが生じます。代表的なものが、高温多湿の作業環境で発生する熱中症です。労働安全衛生規則では、労働者の安全衛生を守るため、使用者に「温湿度の調節(空調設備等)」と「温湿度の測定」の2点を義務付けています。

出典：厚生労働省「労働安全衛生規則」(令和6年10月21日利用)

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【作業環境別】工場における温度・湿度管理の5つのポイント

製造業における温湿度管理の方法は、工場内の作業環境に応じて異なります。特に、生鮮食品や精密機械を扱う工場では、労働者の健康管理に加えて、食品の品質保持や機械の破損防止、そして安定した稼働を確保するための対策が求められます。

食品工場：生鮮食品の食中毒リスクに要注意

生産工場の中でも、精肉工場や惣菜加工工場等、生鮮食品を取り扱う工場では特に温湿度管理が重要です。高温多湿の状態が続くと、食品中でO-157・サルモネラ菌・黄色ブドウ球菌・カンピロバクター等が増殖し、食中毒を引き起こすリスクが高まります。

食品の品質低下を防ぐために、冷蔵庫や冷凍庫以外の場所でも室温を5℃前後と低めに設定することが一般的です。また、食品ごとに適した保存温度が異なるため、生産する食品に合わせた適切な温湿度管理が必要です。厚生労働省の「大量調理施設衛生管理マニュアル」によると、代表的な食品の保存温度は以下のように示されています。

出典：厚生労働省「大量調理施設衛生管理マニュアル」(令和6年10月21日利用)

よく似た品目でも、食品ごとに適切な保存温度は違います。食品を保管する冷蔵庫や冷凍庫はもちろん、食品を運搬する場所の温湿度管理にも注意しましょう。

クリーンルーム：外気が入らず、より慎重な温湿度管理が必要

食品工場、製薬工場、電子機器工場等でよく設置されているクリーンルームでは、労働者の健康管理を含め、より慎重な温湿度管理が求められます。クリーンルームは、空気中の浮遊微生物や浮遊微粒子の活動を限定し、きれいな空気を保つために外気を遮断する構造となっています。

しかし、空気の流れが少ないため、内部の温度や湿度が上がりやすく、特に高温多湿の気候が続く夏季には注意が必要です。そのため、クリーンルーム専用の精密空調を導入する等、クリーンルーム内部の適切な温湿度管理が求められます。一般的なクリーンルームでは、室温23℃前後、湿度55%前後に保つことが理想的です。

精密機器工場：機械類や電気回路の破損防止のため、厳格な湿度管理を

精密機器工場では、働く労働者の安全衛生対策に加え、機械や電気回路の破損防止の観点からも温湿度管理が重要です。一般的に18〜26℃程度の室温であれば、精密機器の品質に大きな影響を及ぼすことはほとんどありませんが、特に注意が必要なのは「湿度」です。

湿度が40%を超えると静電気が発生しやすくなり、電子機器や精密機器の電子回路が破損するリスクが高まります。また、精密機器に鉄(SS400)等の錆びやすい原料を用いている場合は、湿度50%を超えると腐食のリスクが高まり、製品の歩留まりが悪化する可能性があります。そのため、電子機器工場や精密機器工場では、工場内の温度だけでなく、湿度の管理にも特に注意を払い、適切な環境を維持することが必要です。

産業用機器のある工場：機械が発する熱を考慮した温度管理が必要

加工機械や産業用機器が稼働する生産工場では、機械が熱源となり暑熱環境が生まれやすいため、現場で働く労働者の安全衛生管理が重要です。厚生労働省の2023年の調査によると、製造業における熱中症による死傷者数は231人に上り、建設業の死傷者数を上回っています。^※

特に夏季は暑さ指数(WBGT)に注意を払い、作業環境の空調を整備する等、厳格な温度管理が求められます。また、加工機械や産業用機器の安定稼働にも温度管理は欠かせません。機械の高熱状態が続くと、モーターやロボットアーム等で熱膨張が発生し、誤動作や熱暴走が引き起こされ、加工品質の低下につながるリスクがあります。そのため、工場内の空調管理だけでなく、水冷冷却循環システム等を導入し、機械の安定稼働を支える温度管理が必要です。

出典：厚生労働省「令和5年 職場における熱中症による死傷災害の発生状況(確定値)」(令和6年10月21日利用)

サーバールーム：熱に弱い半導体・電子部品の冷却を

IoTシステムを活用したスマート工場の普及に伴い、工場内にサーバー機器を設置するケースが増えてきました。サーバールームがある場合は、サーバー機器の熱対策を考慮した温度管理が必要です。

サーバーに用いられる半導体や電子部品は熱に弱く、高温にさらされると故障リスクが大幅に増加します。例えば、サーバーの温度が40℃の場合、温度が60℃に上昇すると故障率は約10倍、80℃に上昇した場合は故障率が約100倍に上昇するといわれています。

また、半導体や電子部品が故障すると、大規模なサーバーダウンや工場全体の機能停止といった深刻な事態にもつながりかねません。そのため、サーバールーム内の温度管理を徹底し、サーバ用クーラー(ITC)の導入等を通じて、半導体・電子部品の熱対策を実施することが重要です。