スマートグリッドとは?IT技術と自然エネルギーが結びついた次世代電力網
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スマートグリッドとは、通信端末やネットワーク等のIT技術を活用した次世代型の電力網のことです。
スマートグリッドの最も身近な例が、「スマートメーター」を活用した電力ネットワークです。スマートグリッドは、北米を中心にヨーロッパで導入が進んでいますが、日本でも関連技術の研究が活発に行われ、大手電力会社による導入も始まっています。
スマートグリッドのスマート(smart)は「賢い」、グリッド(grid)は「電力網」を意味します。「賢い電力網」とは、従来の電力網とどのような点で違うのでしょうか。
ポイントとなるのは、「需要に合わせた発送電」と「再生可能エネルギー」です。
この記事では、「スマートグリッドとは何か」という疑問に答えつつ、スマートグリッドの課題や実社会への貢献について解説します。
スマートグリッドとはIT技術を活用した次世代電力網
スマートグリッド(smart grid)とは、情報通信技術(ICT)を活用した次世代の電力ネットワークのことです。その特長から、「賢い電力網」と呼ばれることもあります。スマートグリッドの代表的な例として、「HEMS(Home Energy Management System)」や「スマートメーター」があります。
スマートグリッドの考え方は、大規模な停電に悩まされていたアメリカで生まれました。アメリカ全土には約30万キロメートル以上の電力網が敷設されています。しかし、深刻な老朽化が進んでおり、地域ごとの特性やピークタイムに応じた電力需要の変動に対応しきれませんでした。実際、2003年にはアメリカ東部の広範囲で大停電が発生し、その3年後の2006年には、カリフォルニア州の複数地域で約162分間にわたる停電も発生しています。こうした状況を打開し、リアルタイムで電力需要の変化に柔軟に対応できる電力網として、IT技術を取り入れたスマートグリッドの導入が始まりました。
スマートグリッドの特長は、大きく分けると2点あります。
1つ目は、リアルタイムに電力需要管理ができることです。スマートグリッドでは、発電所と住宅や事業所等の消費地がネットワークで結ばれ、双方向でデータがやり取りされます。これにより、供給側はリアルタイムで需要状況を管理でき、電力ピーク時に効率的な供給が可能になります。
2つ目は、遠隔での発電・供給量の調整ができることです。スマートグリッドを通じて、必要な電力を必要なときに供給できるため、停電リスクを低減でき柔軟な電力管理が実現できます。
当初、スマートグリッドは大規模停電の防止のために考案されました。しかし、近年では再生可能エネルギーの利用促進手段としてもドが注目されています。太陽光や風力、バイオマス発電等の自然エネルギーは発電量が変動しやすく、従来の電力網に組み込むことが難しい点が課題でした。しかし、スマートグリッドを活用することで、複数の電源から電力を融通でき、再生可能エネルギーの不安定さを補完することができます。
参考記事:IoTシステムで実現できることとは?適用シーンと併せて解説
スマートグリッドの仕組みと使われている2つの技術
スマートグリッドによる計画的な発送電には、各家庭や事業者に設置される「スマートメーター」が不可欠です。スマートメーターは、都市部を中心に導入が進む次世代電力量計で、従来の電力量計とは異なり、マイクロコンピューターや通信機器を内蔵しています。これにより、リアルタイムで電力使用量の計測・送信が可能となり、遠隔での制御も行えます。
スマートメーターの導入により、電力会社はネットワークを通じて各家庭や事業所の電力消費データを収集し、消費予測に基づいて需要に応じた柔軟な発送電ができるようになりました。従来の中央集中型の電力ネットワークでは、供給サイドから一方的な送電が主流でしたが、スマートメーターの普及により、時間帯や地域ごとの需要に合わせた柔軟な電力供給が可能となっています。
また、スマートグリッドには再生可能エネルギーの地産地消も組み込まれており、太陽光や風力発電といったクリーンエネルギーの活用が進められています。この場合、各発電設備を効率的に管理するために「HEMS(Home Energy Management System)」が必要です。HEMSは、住宅や事業所全体をネットワーク化し、分散した電源と家電・住宅設備を効率よく連携させます。
さらに、再生可能エネルギーをスマートグリッドに統合するためには、直流電力を交流に変換するパワーコンディショナーや、発電量の不安定さを補う大容量の蓄電池も必要です。これにより、自然エネルギーの利用を最大化しつつ、安定した電力供給を実現できます。
スマートグリッドが果たす3つの役割・メリット
スマートグリッドを導入すると、3つのメリットが得られます。スマートグリッドは各家庭や事業所での電力使用量を「見える化」するだけでなく、電力の需給バランスをきめ細かく調整することが可能です。
また、自然エネルギーをスマートグリッドに組み込めば、電源を分散させて電力網をより安定させられます。ここでは、スマートグリッドが実社会に果たす役割について、具体例を交えながら解説します。
スマートメーターで電気の使用量を「見える化」できる
スマートグリッドが推進されると、各家庭や事業所にスマートメーターが設置されます。スマートメーターは、電力消費量をほぼリアルタイムで計測し、モニターを通じてわかりやすく表示することで、電気の使用量を「見える化」します。現在のスマートメーターは、30分ごとに電力使用量を計測することが可能です。
これにより、家庭内や事業所内でどのように電力が使われているか把握できるため、電気の使い方を工夫できます。また、電力使用量のデータは電力会社にも送信され、リアルタイムで電力需要を把握できるため、必要なときに必要な分だけ発送電を行えます。このように、電力を供給する側も利用する側も、賢く電気を管理できるのが、スマートグリッドの利点です。
電力の需要・供給のバランスを効率的に調整できる
スマートグリッドは、スマートメーターを通じてリアルタイムに電力需要を把握し、必要なだけ電力を供給することが可能です。電力消費は1日の時間帯によって大きく変動します。特に電力需要が高まる日中に発送電し、需要が少ない夜間に蓄電することで、エネルギーを効率的に運用する「ピークシフト」ができるようになります。
大規模停電が起こりやすいアメリカと比べ、日本の電力網は整備されていますが、より安定した電力供給のためにはスマートグリッドが欠かせません。また、ピークシフトを行うことで、送電中に発生する電力ロスを抑える効果も期待できます。従来の中央集中型のグリッドでは、発電所から家庭・事業所へ電気が届くまでの間、約5%の電力が失われていました。
電力需要に見合わない過剰な送電を避けることで、送電ロスによるエネルギーの無駄を削減できるのがスマートグリッドの強みです。電力を効率的に利用することで、エネルギーの持続的な運用が可能となります。
自然エネルギーを活用して電力網を安定させられる
スマートグリッドの導入が進むことで、従来の「集合型電源」と「分散型電源」の融合が進み、電力網の安定性が向上します。集合型電源の代表例には火力発電所や原子力発電所があり、大規模な集中型の発電を担います。一方、分散型電源は各家庭や事業所に小型の発電設備を設け、電力の地産地消を行う仕組みです。
次世代型の電力ネットワークが構築されることで、集合型電源と分散型電源が互いに電気を融通し合い、電力供給のリスクヘッジが可能です。実際、一部の電力会社では売電制度を導入し、各家庭の太陽光発電システムから電気を買い取り、双方向で電気力を流通させるグリッドを構築しています。例えば、発電所が災害や事故で停止した場合でも、分散型電源から電力を補完することで、供給への影響を抑えられます。このように、緊急事態に強い電力網を構築できる点が、スマートグリッドの大きな強みです。
スマートグリッドの導入にあたって解決すべき2つの課題
スマートグリッドはメリットばかりではなく、2つの課題も抱えています。ここでは、スマートグリッドのコスト面の問題や、セキュリティ対策の必要性について解説します。スマートグリッドの導入にあたっては、メリットとデメリットの両面を検討し、課題解決にあたることが大切です。
スマートグリッドは少なくない導入コストがかかる
スマートグリッドを実現するには、従来の電力網に代わり情報通信技術を組み合わせた次世代型の電力網が必要です。そのため、設備投資が進んでいない地域では、多額の導入コストがかかる可能性があります。特に電力網の老朽化が深刻なアメリカでは、供給サイドと需要サイドを結ぶ通信ネットワークの構築だけでも、約10兆円の投資が必要と試算されています。また、老朽化した送電線の補強には、アメリカ政府が設定した予算である4,500億円を上回るコストがかかる見込みです。一方、日本は高度な電力網を有するため、コストは比較的抑えられますが、スマートグリッド導入には依然として大きな投資となる可能性があります。
さらに、再生可能エネルギーをスマートグリッドに組み込む場合、追加のコストが発生します。経済産業省の試算では、再生可能エネルギーを大規模に導入し、全家庭や事業所に蓄電池を設置するためには約50兆円が必要です。この導入コストを国や電力会社がどこまで負担するのか、あるいは一部を消費者が負担するのかについて、慎重な議論が求められています。
ただし、スマートグリッド導入による長期的なコスト回収も見込まれています。停電等で電力供給が不安定になった場合、年間800億から1000億円の損失が発生するという試算です。災害や事故リスクを軽減するためにも、再生可能エネルギーとスマートグリッドによる電源の分散化は大きなメリットがあると考えられます。
電力供給システムへのサイバー攻撃が起きるリスク
スマートグリッドは電力網にネットワークやコンピューターを活用するため、サイバー攻撃の標的となるリスクがあります。実際に、ウクライナではマルウェアの一種である「インダストロイヤー(Industroyer)」が電力会社のコントロールセンターに侵入し、大規模な停電を引き起こしました。この攻撃はわずか数十バイトのコマンドで行われ、マルチウェアの脅威を示しています。
グローバルな電力事業者へのアンケート調査では、サイバー攻撃対策が万全であると回答した企業は全体の48%にとどまっています。スマートグリッドの障害が長期化すれば被害が拡大するため、サイバーセキュリティ機能を備えたシステム構築と、サイバー攻撃が起きた場合に迅速な状況分析と対応ができる体制作りが不可欠です。
スマートグリッドの今後の動向と将来性
スマートグリッドは、電力消費の最適化ニーズが高まる中で今後も普及が進むと予測されています。人口増加、都市化、産業開発といった要因も間接的にスマートグリッド市場の成長を後押しすると考えられます。また、カーボンニュートラルやSDGsといった考え方にも沿う内容であり、各国や各企業からの注目が集まっているのです。
各分野で電力消費の効率化が進むことで、地球にやさしい電力利用がさらに促進されるでしょう。
スマートグリッドで柔軟な電力供給と再生可能エネルギーの利用促進
今回は、スマートグリッドの特長や仕組みについて解説しました。スマートグリッドは、需給バランスに応じた柔軟な電力供給を可能にし、再生可能エネルギーの利用促進にも寄与しています。日本社会においても、エネルギー効率の向上や環境負荷の軽減において重要な役割を果たしています。
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